規則的な電子音に目が覚める。軋む身体を起こそうとして、喉が空気を呑んで噎せた。重い身体に巻き付いている、長い手足を見て、昨日の事を思い出した。検証結果は今出たらしい。押し寄せる後悔と多幸感で頭を抱え、今にも叫び出しそうな心境を丸まって堪える。その背中に擦り寄せられる頬の体温で、もっと丸まる羽目になった。
◇
「あーっ! おかえりぃ、アズール、ジェイド」
朝一番にホテルを出て学園へ戻ってきた二人を待っていたのは、満面の笑みで出迎えるフロイドだった。鏡の前を陣取って無邪気な笑顔を見せるフロイドに、アズールは嫌な予感が背筋を伝う。
「すげー楽しかったんだね~、二人ともぉ」
「はい……?」
「今ぁ、二人の話で持ち切りだよ。見る?」
この笑みを見せる時のフロイドはロクなことをしない。経験上、それを理解しているアズールはすぐにジェイドの腕を引いて逃げようとした。しかしフロイドは、更に機嫌よく「あはぁ」と笑った。
「また手ぇ繋いでる~! マジでお前らくっついちゃったのぉ?」
「くっついたってなんだよ! 僕達は依頼の為に、したくもないデートをしてきたんですよ!」
「そーなの?」
すぐさま反論するアズールから視線を外して、フロイドの目は微笑んだままのジェイドを捉える。暫し黙って、考えるように口元へ手をやる。アズールはこれも知っていた。ロクなことを言わない時の顔だった。
「僕達、得も言われぬ関係になったんです」
「はあ!? 何言ってるんです!?」
「あははは! すっげーじゃん、オレらのデートプラン!」
止める間もなく口を開いたジェイドに、フロイドは機嫌よく爆笑した。腹を抱えてスマートフォンを取り落としたのが見えて、咄嗟に受け止めて後悔した。画面いっぱいに映っていたのは、手を繋いで歩くアズールとジェイドの姿だった。肖像権の侵害だとか、この場所で撮っていたとすればあの人物だろうかとか、すぐに思考が巡った。
「お前らが付き合えるなら、誰でも上手くいくって!」
鏡舎のど真ん中で、笑いに引き攣りながらフロイドはそう言った。その言葉に、遂にアズールは耐えきれずに怒鳴った。
「まだ付き合ってない!」
素っ頓狂な声を上げたフロイドの爆笑で、幾人かの生徒が覗き込んでくる。自らの失言にも、背後でジェイドが笑っているのにも気付いて、堪らずフロイドのスマートフォンを地面にたたきつけた。